大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成9年(行ツ)169号 判決

香川県三豊郡大野源町大字福田原二四一番地の一

上告人

株式会社 石津製作所

右代表者代表取締役

石津登

右訴訟代理人弁護士

河村正和

柳瀬治夫

同弁理士

大浜博

愛媛県川之江市川之江町九一〇番地

被上告人

株式会社 大昌鉄工所

右代表者代表取締役

福崎健司

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第一五六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年四月八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人河村正和、同柳瀬治夫、同大浜博の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根岸重治 裁判官 大西勝也 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成九年(行ツ)第一六九号 上告人 株式会社石津製作所)

上告代理人河村正和、同柳瀬治夫、同大浜博の上告理由

第一 原審における争点について

原審における争点は、被上告人(原審原告で、特許庁での平成四年第二一四六五号審判手続の審判請求人)が、右審判手続においてした主張、すなわち、特許第一五九二八六三号(以下「本件特許」という)の発明(以下「本件発明」という)は、特公昭五四-一八五九号特許公報(右審判手続における甲第三号証、原審における甲第五号証で、原審において「引用例1」という)記載の発明(原審において「引用発明1」という)と、特公昭四二-六〇〇七号特許公報(右審判手続における甲第四号証、原審における甲第六号証で、原審において「引用例2」という)記載の発明(原審において「引用発明2」という)とから当業者が容易になし得たものであり、本件発明は特許法二九条二項の規定に違反して特許されたものであるから同特許は無効とされるべきものである、との主張を特許庁の審決が排斥したことが違法であるか否かである。

第二 本件発明の要旨について

原判決が認定した本件発明の要旨は、その判決書の「事実」の項の第2の2(同判決書三頁二行~四頁四行)に記載されているところであるが、同発明はこれを構成要件ごとに分説して整理すると左記の通りとなる。

(1) ウエブWの原反ロール1をウエブ巻戻し方向に回転自在に支持するための原反ロール支持装置Aと、

(2) 前記原反ロール1から巻戻されるウエブWを一定速度で送給するためのウエブ送り装置Bと、

(3) 前記ウエブWに1シート幅ごとにミシン目34を入れるための回転刃ロール6を有するパーフオレーション装置Cと、

(4) 前記ウエブWを規定位置に位置決めしたミシン目34のところで切断するためのウエブ切断装置Eと、

(5) 切断されたウエブWの端Waを芯棒12に巻付けるためのウエブ巻付け装置Fと、

(6) 芯棒12に巻付けられたウエブWを該芯棒12の周りで所定シート数をもつ小ロール13に巻上げるためのウエブ巻上げ装置Gと、

(7) 前記ウエブ送り装置Bと、パーフオレーション装置Cとウエブ巻上げ装置Gを駆動するための適宜の駆動装置Hとを有し、

(8) さらに該駆動装置Hに、

(一) 適宜のカウンター装置97によって計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで該駆動装置Hへの動力供給を停止し

しかも

(二) 前記ウエブ切断装置Eにおいて前記ウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフオレーション装置Cとウエブ巻上げ装置Gとを停止させるための

定位置停止装置I

(9) を付設したことを特徴とするミシン目つき無芯ロール製造装置。

第三 原判決が認定した審決の理由の要点について

一. 原判決が認定した「審決の理由の要点」はその判決書の「事実」の項の第2の3(同判決書四頁五行~九頁七行)に記述されているところであるが、同判決によれば、右審決では、引用発明1と引用発明2及びそれらの各引用発明と本件発明との対比について、次の二ないし四のような認定と対比判断をしたものとされている。

二. 「引用発明1を記載した引用例1」についての審決の認定

引用例1には次の通りの発明が記載されている。

紙などのシートを、ロール巻きされている原反から繰り出して、所定の長さずつ芯に巻き取らせ、小巻きのシートロールを製造する装置に関するものであって、シート1'1の原反ロール11を、ウエブ巻戻し方向に回転自在に支持するための原反ロール支持装置と、前記シート1'1に巻取りの最終段階において、切断用に一本だけミシン目1'0を入れるためのパーフオレーション装置10と、前記シート1'1を、規定位置に位置決めしたミシン目のところで切断するための切断装置22と、切断されたシート1'1の端を芯13nに巻き付けるための、ローラ3'を含むローラ3等からなる巻付け装置と、芯13nの周りで所定長を持つ小巻きのシートロール13に巻き上げるための、ローラ3の群と下部ローラ7からなるシート巻上げ装置と、巻き上げたシートが所定長に達したところで巻上げを停止し、前記切断装置22において、前記シート1'1のミシン目1'0が前記規定位置に位置するように前記シート1'1を繰り出して、前記規定位置で停止させるための主軸1の角回転装置を設けた、小巻きのシートロール製造装置。

三. 「引用発明2を記載した引用例2」についての審決の認定

引用例2には次のとおり記載されている。

駆動ドラム2に外接させたロール9の円周長さと、ロール9とオートカウンター10の回転比を(例えばロールの円周長さを1米、回転比を1:1のごとく)定めておけば、カウンターの表示目盛により紙の捲取られた長さを知り得るとともに、目盛りが設定値に達するとクラッチが断となり、モーターの回転に拘らず駆動ドラムの回転を自動的に停止させて捲取りを止めさせられる。

四. 審決における「本件発明と引用発明1、2との対比」

原判決によれば、審決では、本件発明と引用発明1、2との対比に際して左記のような認定又は判断をしたものとされている。

ア. 本件発明は、ミシン目付き無芯ロールを製造するために、「ウエブWに1シート幅ごとにミシン目34を入れるための回転刃ロール6を有するパーフオレーション装置C」の構成要素、及び、その要素と関連する、「駆動装置Hに、適宜のカウンター装置97によって計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで該駆動装置Hへの動力供給を停止ししかも前記ウエブ切断装置Eにおいて前記ウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフオレーション装置Cとウエブ巻上げ装置Gとを停止させるための定位置停止装置Iを付設した」との構成要素を備えたものである。

イ.(1) これに対し、引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、また意図するような構成をなしているものでもない。

(2) 確かに、引用発明1には、巻取りの最終段階において、切断用に一本だけシートにミシン目を入れるパーフオレーション装置が具備されているが、本件発明のように、1シート幅毎にミシン目を入れ、それをカウントするためのパーフオレーション装置とは、機能的にみても異なる。

ウ.(1) したがって、請求人(原告)の主張するように、引用発明1に引用発明2を組み合わせ、あるいは、置換したとしても、前記の点の構成要素を備えた本件発明を構成することはできない。

(2) そして、本件発明は、このような構成要素を有することにより、本件発明の明細書に記載された、「適宜のカウンター装置によって計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで駆動装置への動力供給を停止ししかも前記ウエブ切断装置においてウエブのミシン目が規定位置に位置決めされるべき位相においてウエブ送り装置とパーフオレーション装置とウエブ巻上げ装置とを停止させるようにした定位置停止装置によってウエブを所定シート数毎に規定位置で正確に停止させてミシン目のところから切断するようにしているため、小ロール側に巻取られるシート数が常に正確であり、特に容器詰めウエットティシュの場合の如く内容シート数を箱に表示したものにおいては、その表示数量と内容数量とが常に一致しているためその商品価埴が向上する」(40頁下から9行目ないし41頁上から5行目)との作用効果を奏するものであるから、当業者が、引用発明1及び2から容易に発明することができたものとはいえない。

第四 原判決の「理由」の項における判示事項

一. 「原判決の理由の項の第1及び第2(判決書一六頁三行~一八頁末行)」について

右については、特に議論すべき内容がないため、同部分における判示事項の掲記はこれを省略する。

二. 「原判決の理由の項の第3及び第4(判決書一九頁一行~二三頁一九行)」における判示事項について

「原判決の理由の項の第3及び第4」は被上告人(原審原告)が主張する「審決取消事由」についての判示事項(事実認定と判断)を示したものであるが、その判示事項には以下の「第五」の項に示すように、原判決を違法たらしめる原因となるいくつかの重大な誤りがある。

上告人は、右「原判決の理由の項の第3及び第4」に示されている判示事項の誤り(「原判決を破棄すべき事由」となる)を指摘するに先立ち、先ず、同「理由の項第3及び第4」に示されている判示事項を左記の通り要点ごとに分説し(判示事項1ないし9)、そのあとの「第五」の項において、「原判決を破棄すべき事由」を明らかにする。

1. 判示事項1(判決書一九頁三行~一四行)

(1) 原告は、引用例2には、本件発明と同様のパーフオレーション装置が記載されているにもかかわらず、審決は、それを看過したものと主張する。

(2) そして、審決においては、請求原因3(4)のとおり、本件発明及び引用発明1の各パーフオレーション装置についての認定、判断が示されているが、引用発明2においても上記装置が具備されているか否かについては特に言及されておらず、更に、審決は、本件発明と引用発明1の各パーフオレーション装置の機能の差異を前提に、本件発明が、各引用例から容易に発明することができたとはいえないと判断したものであることが明らかである。

2. 判示事項2(同一九頁一五行~二〇頁三行)

ところで、本件発明のパーフオレーション装置とは、本件発明の特許請求の範囲の記載によれば、「前記ウエブWに1シートごとにミシン目34を入れるための回転刃ロール6を有するパーフオレーション装置C」であり、「パーフオレーション装置C(略)を駆動するための適宜の駆動装置Hとを有し」とされているものであるから、上記パーフオレーション装置は、駆動装置Hによって回転駆動され、ウエブの一定長毎にミシン目を刻むものであることが明らかである。

3. 判示事項3(同二〇頁四行~一二行)

これに対し、成立に争いのない甲第六号証(引用例2)によると、引用例2においては、引用発明2(「トイレットペーパー用マシーンにおけるトイレットペーパーの巻長規整装置」)のミシンロール22について、「22は駆動ドラム2上で原紙に一定長さ毎にミシン目を刻むミシンロールであり、図示していないが、切断ロール4、4'とともに駆動ドラム2から回転を伝達されるものである。」(1頁右欄37行ないし40行)と記載されていることが認められる。

4. 判示事項4(同二〇頁一三行~一八行)

上記引用例2の記載によると、引用発明2のミシンロール22は、駆動ドラムによって回転させられ、それによって、原紙に、一定の長さ毎にミシン目を入れるものであると解されるから、その構成及び機能の点において、本件発明のパーフオレーション装置と何ら異なるものではないというべきである。

5. 判示事項5(同二〇頁一九行~二二頁一三行)

(1) もっとも、審決は、本件発明はパーフオレーション装置Cの構成要素及びその要素と関連の前記本件発明の要旨記載の定位置停止装置Iの構成要素を備えたものであるのに対し、引用発明1及び2はそのようなミシン目付き無芯ロールを製造することを目的とするものでないし、また意図するような構成を成しているものではない、と認定判断している。

(2) しかしながら、引用発明1は、前記審決の理由の要点(3)ア.記載のとおり、「シート1'1のミシン目1'0が前記規定位置に位置するように前記シート1'1を繰り出して、前記規定位置で停止させるための主軸1の角回転装置を設けた」構成を備えたものであることは、当事者間に争いがなく、

(3) 成立に争いのない引用例1の記載内容(1欄末行ないし2欄10行、5欄31行ないし6欄1行等)に照らし、引用発明1は巻き取ったシートが所定長さになったときに巻取りを停止し続いて原紙を定位置に停止させてミシン目のところで切断する定位置停止装置を備えたものであって、

(4) 引用例1には本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されていることは明らかである。

(5) そして、ミシン目付き無芯ロールにおいて、前記第2、2認定のように、シート数を正確にし、巻始め、巻終わり部分に不良部分がないようにすることは、当業者であれば、当然に認識する技術的課題(目的)であるから、

(6) 引用発明1において、そのパーフオレーション装置に代えて引用発明2のミシンロールを適用して本件発明の構成を得ることは、当業者であれば、容易に想到できたことであって、その置換に格別の困難は見出だせない。

(7) また、その結果、審決がその理由の要点(4)において認定した「小ロール側に巻取られるシート数が常に正確であり、特に容器詰めウエットティシュの場合の如く内容シート数を箱に表示したものにおいてはその表示数量と内容数量とが常に一致しているためその商品価値が向上する」という作用効果を奏することは、当業者であれば、当然に予測し得た事項にすぎない。

6. 判示事項6(同二二頁一四行~末行)

そうすると、審決が引用発明2のミシンロール22について何ら言及することなく、引用発明1におけるパーフオレーション装置が本件発明のそれと機能的にみて異なり、引用発明1に引用発明2を組み合わせあるいは置換しても本件発明を構成することができず、本件発明の前記作用効果を奏することはできないと認定判断したことは、明らかに誤りである。

7. 判示事項7(同二三頁一行~五行)

そして、前記1の後段のとおりの審決の理由における判断内容からみるならば、審決における引用例2についての前記認定の誤りが、本件発明の容易想到性を否定した審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。

8. 判示事項8(同二三頁六行~一四行)

なお、原告及び被告は、更に、本件発明と引用発明2の各カウンター装置の実質的同一性についても互いに主張しており、その主張の趣旨は前記7の判断に関するものとも解されるが、審決においては、本件発明のカウンター装置と引用発明2のカウンター装置との間の具体的な対比及びそれが本件発明の容易推考性に対し及ぼすべき影響等について、特に判断を示しているものではないので、当審においても検討を要しないものというべきである。

9. 判示事項9(同二三頁一五行~一九行)

以上によれば、審決は、違法として取消しを免れず、原告の本訴請求は理由があるものというべきであるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

第五 原判決を破棄すべき事由

一. 「原判決の理由の項の第3」では「審決取消事由について」と題して、その中で右第四、二の1ないし8に示すように「判示事項1(1)(2)」、「同2」、「同3」、「同4」、「同5(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)」、「同6」、「同7」、「同8」、「同9」の各判示事項が示されているが、原判決ではそれらの判示事項の中でも、特に「判示事項1(2)」、「同5(2)ないし(7)、就中(3)(4)」、「同6」、「同7」の各判示事項に問題(事実誤認と判断の誤り)があり、以下においては、順次右各判示事項における問題点を指摘し、結果として同判決が違法であることを明らかにする。

二. 「判示事項1(2)」における問題点について

1. 原判決は、「判示事項1(2)」のところで、「審決においては、請求原因3(4)のとおり、本件発明及び引用発明1の各パーフオレーション装置についての認定、判断が示されているが、引用発明2においても上記装置が具備されているか否かについては特に言及されておらず、更に、審決は、本件発明と引用発明1の各パーフオレーション装置の機能の差異を前提に、本件発明が、各引用例から容易に発明することができたとはいえないと判断したものであることが明らかである」と判示しているが、原判決におけるこの判示部分は、審決に対する重大な事実誤認である。

2. すなわち、審決は、原判決書の第2請求原因3(4)アイでも認めているように、先ず、「本件発明は、ミシン目付き無芯ロールを製造するために、『ウエブWに1シート幅ごとにミシン目34を入れるための回転ロール6を有するパーフオレーション装置C』の構成要素、及び、その要素と関連する、「駆動装置Hに、適宜のカウンター装置97によって計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで該駆動装置Hへの動力供給を停止ししかも前記ウエブ切断装置EにおいてウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフオレーション装置Cとウエブ巻上げ装置Gとを停止させるための定位置停止装置Iを付設した」との構成要素を備えたものである。」と認定した上で、さらにこれを受ける形で「これに対し、引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、また意図するような構成をなしているものでもない。」と判断(以下、この判断を「審決における基礎的判断」という)したものであって(前記第三の四の記ア、イ(1)、参照)、審決が「本件発明が、各引用例から容易に発明することができたとはいえないと判断した」のは、判決がいうように「本件発明と引用発明1の各パーフオレーション装置の機能の差異を前提に」したためではなく、基本的には、「引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、」、また「意図するような構成をなしているものでもない(定位置停止装置Iを有するものではない、との意)」と判断したためである。

3. なお、審決では、右審決における基礎的判断(右第三の四の記イ(1))に続いて、「確かに、引用発明1には、巻取りの最終段階において、切断用に一本だけシートにミシン目を入れるパーフオレーション装置が具備されているが、本件発明のように、1シート幅毎にミシン目を入れ、それをカウントするためのパーフオレーション装置とは、機能的にみても異なる。」と述べているが(第三の四の記イ(2)、参照)、これは、「右第三の四の記イ(1)」に示す審決における基礎的判断(引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、また意図するような構成をなしているものでもない。)に至る経過の一部を説示する趣旨のものであって(本来ならば言及する必要すらないものである)、それ自体をもって判断の主体部分としたものではないことは明らかである。しかるに原判決は、この部分の「審決の理由」の主旨を取り違え、審決が、単に「本件発明と引用発明1の各パーフオレーション装置の機能の差異を前提に、本件発明が、各引用例から容易に発明することができたとはいえないと判断した」ものであると誤認したものである。

4. 原判決が右審決を違法であるとして取り消した判断の基礎には右のような「審決における基礎的判断」に対する誤認があるのであり、本来的には、原判決は先ず右「審決における基礎的判断」の適否について判断を示すべきであるのにその判断を示しておらず、原判決は先ず第一にこの点において「判断遺脱」又は「理由不備」の違法がある。その詳細は次の(一)ないし(七)の通りである。

(一) 審決は、本件発明と引用発明1及び2とを対比して、引用発明1及び2は、いずれも

ア. ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的とするものではないし、

イ. 意図するような構成をなしているものではない(「定位置停止装置」を備えたものではない、との意)

と認定判断した。

(二) そして、その結論として、原判決書八頁三行~六行に示すように「したがって、請求人(被上告人で原審原告)の主張するように、引用発明1に引用発明2を組み合わせ、あるいは、置換したとしても、前記の点の構成要素を備えた本件発明を構成することはできない。」と判断したものである。

(三) 審決が、右(二)に示すような判断をした背景には、引用発明1及び2について右「(一)ア.、イ.」に示すような二つの認定判断があるのである。

(四) しかるに、原判決中には、審決が右「(一)ア.、イ.」の二項目の認定判断を基礎として、右(二)の如く判断したことの適否については、必要且つ十分な判断が示されていない。

(五) すなわち、審決が右(二)のように判断するにあたって根拠とした二つの認定判断(右「(一)ア.、イ.」)のうち、「(一)イ.」については、原判決書二〇頁一九行~二二頁一三行において一応その適否を判断している(その判断が誤りであることは後述する)が、審決が、右「(一)ア.」を根拠の一つとして右(二)の如く判断したことの適否については、判決書中のいずれの部分にもこれに言及したところがない。

(六) 本件発明の「ミシン目つき無芯ロール製造装置」は、芯つきトイレットペーパーのような単なる「ミシン目付きロール」を製造するものではなく、容器詰めウエットティッシュのように、無芯ロールの内側からシートを取出すようにして使用される「ミシン目つき無芯ロール」を製造するためのものである。

(七) 審決では、この点の相違を正確に理解した上で「引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、」と指摘した(引用発明1はミシン目つきロールを製造するためのものではなく、引用発明2は、ミシン目付きロールを製造するものではあっても、無芯ではない、単なる「芯つきトイレットペーパーの製造装置」に関するものである)ものであり、審決が、「本件発明は、引用発明1及び2から容易に想到し得るものではない」と判断した背景には、右「(一)ア.」に示すように「引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではない」という判断があったのである。しかるに、原判決では、審決におけるこの認定判断部分の適否については一言も言及することなく、同審決を違法であるとして取消したものであり、同判決には、判決の結論に影響を及ぼすべき事項について判断の遺脱又は理由不備があることが明らかである。

5. なお、原判決では、その判決書二〇頁一九行~二一頁五行において「もっとも、審決は、本件発明はパーフオレーション装置Cの構成要素及びその要素と関連の前記本件発明の要旨記載の定位置停止装置Iの構成要素を備えたものであるのに対し、引用発明1及び2はそのようなミシン目付き無芯ロールを製造することを目的とするものでないし、また意図するような構成を成しているものではない、と認定判断している。」と記述しているように、一応、審決が右の通り認定判断したことに言及してはいるが、そのあとの同判決書二一頁六行~一八行において、前記判示事項5(2)(3)(4)のように判示して、右審決の認定判断と真向うから対立する認定判断を示した。すなわち、右審決では、「引用発明1及び2は・・・・・意図するような構成をなしているものでもない(定位置停止装置Iを有するものではない、との意)」としたのに対して、原判決では「引用例1には本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されていることは明らかである。」として審決のした右認定判断を全面的に否定したのである。

しかしながら、「引用例1に本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されているか否か」については次項三.に示す通り、審決のした認定判断が正しく、これと対立する判決の認定判断が全面的に誤りである。

三. 「判示事項5(2)(3)(4)」における問題点(引用例1に本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されているか否か)について

1. 本件発明における「定位置停止装置」は、特許請求の範囲中の同「定位置停止装置I」に関する記述部分によれば「適宜のカウンター装置97によつて計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで駆動装置Hへの動力供給を停止する」という前段の要件と、「前記ウエブ切断装置Eにおいて前記ウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフオレーション装置Cとウエブ巻上げ装置Gとを停止させる」という後段の要件の二つの要件を充足するものでなければならない。

2. これに対して原判決は、引用発明1について「引用発明1は巻き取ったシートが所定長さになったときに巻取りを停止し続いて原紙を定位置に停止させてミシン目のところで切断する定位置停止装置を備えたもの」と認定し、且つこれをもって「引用例1には本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されていることは明らかである。」と判断した(判決書二一頁一三行~一八行)。しかし、原判決は、引用発明1に備えられているという「定位置停止装置」と本件発明の「定位置停止装置」とが同一の構成であると判断した点において誤っており、その結果、本件特許について特許法二九条二項の解釈適用を誤った違法(あるいは、右の判断について、何ら合理的な説明がなく、理由不備の違法)がある。

3. 原判決が引用発明1に備えられていると認定した「定位置停止装置」と本件発明の「定位置停止装置」とは次のア.イ.に示す通り決して同一の構成ではない。

ア. 右に述べたように、判決が引用発明1に備えられていると認定した「定位置停止装置」は「巻き取ったシートが所定長さになったときに巻取りを停止し続いて原紙を定位置に停止させてミシン目のところで切断する」ものであるのに対し、本件発明の「定位置停止装置」は、「適宜のカウンター装置97によって計数されたミシン目形成数が所定数に達したところで駆動装置Hへの動力供給を停止ししかも前記ウエブ切断装置Eにおいて前記ウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフォレーション装置Cとウエブ巻き上げ装置Gとを停止させる」ものである。

イ. すなわち、本件発明の「定位置停止装置」においては「ミシン目形成数を計数する適宜のカウンター装置」があるのに対して、原判決が引用発明1に備えられていると認定した「定位置停止装置」には「ミシン目形成数を計数するカウンター装置」はない。又、本件発明の「定位置停止装置」は「ミシン目形成数が所定数に達したところで駆動装置Hへの動力供給を停止し」しかも「前記ウエブ切断装置Eにおいて前記ウエブWのミシン目34が前記規定位置に位置決めされるべき位相において前記ウエブ送り装置Bとパーフォレーション装置Cとウエブ巻き上げ装置Gとを停止させる」ものであるのに対して、原判決が引用発明1に備えられていると認定した「定位置停止装置」は「巻き取ったシートが所定長さになったときに巻取りを停止し続いて原紙を定位置に停止させてミシン目のところで切断する」ものである。

四. 「判示事項5(5)ないし(7)および判示事項6、7」における問題点

1. 原判決は、同判決における誤った右判断(判決が引用発明1に備えられていると認定した「定位置停止装置」と本件発明の「定位置停止装置」とが同一構成である、との認定判断)を基礎として、その後の判断(右判示事項5(5)ないし(7)及び判示事項6、7)をしているが、これらの判示事項は、全てその前提(本件発明における「定位置停止装置」と引用発明1に備えられている「定位置停止装置」が同一の構成である、との前提)において誤っており、ことごとく失当であるといわなければならない。

2. 以上詳述したように、本件発明と引用発明1、2との対比については、

「引用発明1.2は意図するような構成をなしているものではない(定位置停止装置を有するものではない、との意)」とする審決の認定判断(判決書六頁一九行~七頁一六行)が正しく、「引用例1には本件発明の定位置停止装置と同一の構成が開示されていることは明らかである。」とする判決の認定判断が誤りである。

原判決が右審決を違法であるとして取消した判断の基礎には右のような致命的な認定判断の誤りとそれに基く特許法二九条二項の解釈適用の誤り(判決ニ影響ヲ及ボスコト明ナル法令ノ違背)があるのであり、本来、右審決には本件特許に対する特許法二九条二項の適用に関して何らの違法もない(換言すれば、本件特許には、右審決が説示するように、何らの無効原因もない)。

五. 「判示事項8」における問題点について

1. 原判決は、右「判示事項8」のところで、次のア.ないしエ.のように説示している。

ア. なお、原告及び被告は、更に、本件発明と引用発明2の各カウンター装置の実質的同一性についても互いに主張しており、

イ. その主張の趣旨は前記7の判断に関するものとも解されるが、

ウ. 審決においては、本件発明のカウンター装置と引用発明2のカウンター装置との間の具体的な対比及びそれが本件発明の容易推考性に対し及ぼすべき影響等について、特に判断を示しているものではないので、

エ. 当審においても検討を要しないものというべきである。

2. 原判決は、右「1ウ.」に示すように「審決においては、本件発明のカウンター装置と引用発明2のカウンター装置との間の具体的な対比及びそれが本件発明の容易推考性に対し及ぼすべき影響等について、特に判断を示しているものではないので」と説示しているが、原判決のこのような認識は、右審決を正当に理解しているものとはいえない。

すなわち、審決は、前記「第三の四の記イ.(1)」に示すまうに、「これに対し、引用発明1及び2は、いずれも、ミシン目付き無芯ロールを製造することを目的にするものではないし、また意図するような構成をなしているものでもない。」と認定判断しているが、審決のこの認定判断(審決における基礎的判断)は、当然に「本件発明のカウンター装置」と「引用発明2のカウンター装置」との対比判断(「引用発明2のカウンター装置」は「本件発明のカウンター装置」とは意図するところが異なる、との認定判断)を包含した総合的認定判断なのであり、決して原判決がいうようなものではない。

3. 「判示事項8」においては、右「1.ウ.、エ.」のように説示しているが、これからも明らかなように、原判決は、自ら[本件発明のカウンター装置と引用発明2のカウンター装置との間の具体的対比及びそれが本件発明の容易推考性に対し及ぼすべき影響等」についての検討を怠ったものであり、必要な判断を遺脱したことが明白であるといわなければならない。

第六 結語

原判決は、以上述べたところから明らかなように、本件発明と引用発明1、2との対比において認定判断を誤り、結果として本件特許に対して誤って特許法二九条二項を適用した違法(本件発明は引用発明1、2から容易になし得るものではない、とした審決を不法に取り消した違法)があるばかりでなく、同判決の中で必要な判断を遺脱し又は必要な理由を示さなかった違法(詳しくは、右第五の二の4、同第五の五、参照)があり、破棄されるべきものである。

以上

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